歪(ひずみ)とは
ひずみとは、ある物質に力が加わるとき、その物質に生じた変形度合いを示す用語です。例えば、機械やインフラに組み込まれたある部品が、外部から力を加えられることでわずかに変形したり(機械的ひずみ)、加熱あるいは冷却によって伸縮する(熱ひずみ)ことが起こりえます。また、部品の成型段階において、成型時に受けた応力が部品の内部に残留し、ひずみを生じさせることもあります(残留ひずみ)。
ひずみは、機械やインフラ、またはその部品がどのレベルの負荷まで耐えられるかを評価する応力解析の指標として計測されます。また、ひずみセンサーを機械的な変換器に組み込み、物理量センサ―として活用することもでき、以下のセンサーを始めとしてあらゆる応用がなされています。
ー ロードセル(荷重センサ―)
ー 圧力センサー
ー 加速度センサー
ー トルクセンサー
ひずみセンサーの比較
電気式ひずみゲージ
電気式ひずみゲージは、細い金属線が引っ張られるときに線幅が細くなることで抵抗値が大きくなるという現象を応用した、ひずみ計測で最もよく使われるセンサーです。ひずみの大きさはゲージ抵抗の変化として観測することができます。市販の電気式ひずみゲージは、それ自体をセンサーとして構造物に貼り付けて応力解析や機械の耐久性試験に用いられますが、ひずみゲージを変換器に組み込んで各種物理量センサ―として使用されています。
電気式ひずみゲージの抵抗値の変化は、大きくても数Ω程度であるため、感度を上げるためにホイートストンブリッジなどを用いることが一般的です。
ファイバーブラッググレーティング(FBG)
電気式ひずみゲージに代わるもう一つのひずみセンサーとして知られているのが、ファイバーブラッググレーティング(FBG)センサーです。FBGセンサーは、光ファイバーコア中に短い間隔で屈折率の周期構造(回折格子)をもたせることで、コア内の伝送光のなかから特定の波長の光のみが反射する現象(ブラッグ反射)を応用したものです。FBGセンサーのブラッグ反射光の波長は、コア内の回折格子の周期と対応しているため、光ファイバーが引っ張られるとブラッグ反射光の波長がシフトすることから、ひずみを光の波長シフト量として変換することができます。
FBGセンサーは、センサー点ごとに検出波長帯を変えることで波長分割多重によるマルチポイント計測を行える、という大きな特徴があります。一方で、FBGセンサーは数pm/μεと非常に小さな感度でひずみを検出することに加えて、熱光学特性(熱による屈折率変化)によりセンサー点の温度に対しても鋭敏に反応してしまうため、計測器の製造コストや計測器・センサー点の温度補正といった、いくつかの課題があることに留意しなければなりません。また、剛性が高く伸び縮みしにくい石英ガラスで構成される光ファイバーを引っ張ることでひずみを検出するという原理上、わずか数パーセント程度の光ファイバーの破断限界を超える大きなひずみが生じるときにはセンサーそのものが破壊される危険性がともないます。
ヘテロコア型光ストレインゲージ
ヘテロコア光ファイバーは、異なるコア径のファイバー同士を融着接続することで、ファイバーの曲げに対して鋭敏に伝送光が漏れ出るようになる曲げセンサーです。さらに当社の紹介ページに記載の通り、ファイバーの2点間を寄せるように変位を与えると、高い線形性をもって伝搬光損失が変化することが分かっています。
更に、この2点間の変位によるヘテロコア部の曲げ(座屈曲げ)は、2点の間隔を狭めることで変位に対して鋭敏に曲率を変えるようになることが分かり、マイクロひずみ(およそ100万分の1ほどの変形)まで検出する、全く新しいひずみゲージとして機能することを実験的に証明しました。
下記に示すのは、一般的な電気式ひずみゲージ(またはひずみゲージ式変換器)とヘテロコア式光ストレインゲージ(i-Lineセンサー)の計測構成を比較したものです。
電気式ひずみゲージは、前述のように、ゲージ抵抗の変化が最大で数Ω程度と非常に小さいため、マイクロひずみ単位の微小な変化を高感度に検出するために、ブリッジボックス(ホイートストンブリッジ)に一度接続してから、測定器に接続する必要があります。また、電気式ひずみゲージは、温度、電磁場などの周囲の環境に起因するゼロ点ドリフトやゲージ抵抗自身の熱膨張係数などが誤差の原因となりえるので、実環境における長期的な計測で精度を担保するには相応の対策を講じる必要があります。
一方で、ヘテロコア型光ストレインゲージは、センサー側の構造によってひずみに対する感度を上げているため、i-Lineコントローラに直接接続してひずみを検出することが可能です。更に、i-Lineセンサーからi-Lineコントローラまでは通信用シングルモードファイバケーブルを使用するので、伝送損失が少なく最大で数十キロメートルまでケーブルを延長することができます。センサー部も温度、電磁場に影響を受けにくく、光ファイバーセンサー自身の熱膨張係数も極めて小さいので、周囲の環境による誤差を受けにくく長期的な計測に適したセンシングが実現しました。
i-Lineシリーズが目指す、歪センシングの可能性
ヘテロコア光ファイバーセンサーを基礎とする当社のi-Lineソリューションでは、センサーから受け取る光信号をi-Lineコントローラで受け取って信号処理し、メモリ記録/ケーブル出力/各種無線通信(LTE、Bluetooth、LoRa、etc)までの機能を取り揃えています。また、従来の複雑なシステム構成を脱却し、ユーザーの希望に合わせてシンプルで扱いやすいセンサーシステムをご提供いたします。
当ページでは、従来技術と比較しながら、ヘテロコア光ファイバーひずみセンサーをご紹介いたしました。ロードセル・加速度計・水位計・トルクセンサーなど、様々な変換器(センサー)の多くに電気式ひずみゲージが使われていますが、ヘテロコア光ファイバーによるひずみ計測が可能となったことで、あらゆる光式の変換器を開発することができます。(本HP内では加速度センサー、温度センサーの事例をご紹介しています)
ご興味のある方は、当社ホームページのお問い合わせフォームからのご連絡をお待ちしております。
参考文献・URL
- EDN Japan「ひずみゲージの落とし穴」https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/0909/01/news147.html
- 山崎大志, 渡辺一弘. “ヘテロコア式光ストレインゲージと IoT 展開.” 光アライアンス 31.12 (2020): 52-56.
- H. Yamazaki et al.: IEEE Sensors Journal 20.22 (2020): 13387-13393. https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/9126785