折り紙の魅力
「折り紙」は、私たち日本人にとって古くから親しまれてきた遊びですが、この折り紙の技術が宇宙産業やロボティクス、製品デザインなど、様々な分野で工業的に応用されようとしているのはご存じでしょうか?
実は折り紙は、その折り方によって元々の素材には備わっていなかった機械的性質をもたせたり、収縮・展開を自由に制御することが可能なのです。例えば1970年に三浦公亮氏が考案した折り畳み方である”ミウラ折り”は、一枚の紙をジグザグと折ることだけで、小さな力で大きく紙が開く技術として知られています。この技術は、外から自由に制御できない宇宙空間において、遠心力によって人工衛星のパネルをきれいに展開する方法として採用されています。また”ハニカム構造”は、六角形の筒をハチの巣状に敷き詰めた構造により、軽くて強度があり、音や衝撃を吸収するしたり断熱効果を持たせることができます。身近なところでは、ダイヤカット形状が刻まれたアルミ缶は、特徴的なデザイン性だけでなく、軽量化と強度を両立させられるという優れた機能性を実現しています。
また、ロボティクスにおいても、「折る」というとてもシンプルな方法で様々な形態のロボットや機能性を実現できることから注目されています。例えば折り紙の構造をもったロボットハンドがあれば、物体に触れたときにソフトタッチと確かな把持力を両立することができます。また、ロボットを折り畳めるようにすれば運搬性が向上し、強度が上がる折りパターンを施せばロボットの軽量化と強度アップが期待できます。
「折り紙」と「センサー」を組み合わせる~光ファイバー折り紙センサー~
折り紙は、折り畳みパターンによってさまざまな機能を持たせることができます。では、折り紙とセンサーを組み合わせることで、今までにない機能をもったデバイスを作れないでしょうか?
創価大学では、構造体に”神経”のように組み込める細く柔軟な光ファイバーセンサーの特長と、同じく折り方によって柔軟性を与えられる折り紙の特長を生かして、光ファイバーセンサーで折り紙の折り畳み角を検知する「光ファイバー式折り紙センサー」を考案し、特許化しました(特許第7267538号)。
このセンサーは、折り紙の折り目にある特定のパターンでヘテロコア型光ファイバーセンサーを貼りつけることで、折り目の角度に鋭敏かつ単調に光信号を変化させることができます。もちろん、光ファイバーセンサーの優れた点である抜群の耐雷性・温度非依存・耐放射線などの特長を備えています。このセンサーを使えば、高電圧環境下でパンタグラフのような折れ曲がる機械装置の挙動をモニタリングしたり、ロボット・ソーラーパネルなど折り紙工学を駆使した構造体の形状を測定するのに役立つかもしれません。
複雑な折り紙の形状をとらえてみた
複数の折り畳み角度を捉えることで、より複雑な折り紙の形状を捉えることも可能です。試しにアルミ缶の強化やロボットアームなどに使われる”吉村パターン”の折り紙構造体に、計6点の折り紙センサーを組み込んでみました(下図)。吉村パターンは円筒をつぶした時に現れる折り構造のことを指しますが、今回はセンサーの反応が見やすいように、上下方向に伸縮しやすい折り目のパターンを用意しました。
センサーは、上図のx,y軸に直交する側面に、位置を変えてそれぞれ3か所ずつ配置します。すると、上下の押し込みや平行の動きなど変形の仕方によってセンサーの出力値のふるまいが変わります。このセンサーの出力パターンによって折り紙構造体がどのように変形しているのかを捉えられるようになります。
このセンサーのふるまいはリアルタイムでも観測できます。具体的な用途はまだ模索中ですが、こんなに簡単に折り紙構造体にセンシング機能を持たせられるというのは面白いです。
参考文献・URL
- ミウラ折りとは|ミウラ折り公式サイト
- ダイヤカット|東洋製罐株式会社
- 山崎大志,渡辺一弘,「折紙をセンサ化するヘテロコア光ファイバ折り畳み角度センサ」,第21回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会,Online,(2020.12),同講演予稿集 2E2-08.